流れるような走りの




ベントレーの後部座席。




カタールでの商談を終え、




羽田からの出張帰りの車の中。




葛西は、手にしていた書類を閉じた。




時差ぼけで、思考がにぶる頭をゆする。




結局あの後、すぐカタールにとんだので、




あいつとは、あれ以来会っていない。






何の気なしに眺める、




車窓を流れる景色。




会社に近づく交差点。




ん?




葛西が目をとめる。




通りを歩いてくるさとみを見つけた。




うつむきかげんで、




気落ちしたような足取り。




さとみを見つめる葛西の




乗った車は、すぐにさとみとすれ違い、




遠ざかっていく。




葛西は、さとみを意識の外へ追い払うように、




また書類を開いた。




俺にはあいつが暗い顔してようが、




何していようが




関係ない。




どこへ行くのかなんて気にする必要ない。




そう言い聞かせるように思う自分に




イライラする。




「はー」




思わずため息をつく。




勝手に思考を乗っ取られているようで、




落ち着かない。




どうせ、ポケットマネーで払った、




はした金だ。





もう契約は解消するべきなのかもしれない。





あの子といると、いつもの自分じゃいられない。




車窓に目をやると、




今にも振り出しそうなこもった曇天の夕空。




帰りは濡れるだろう。