誰かが言う。
「うわ。あれ松枝のジュニアじゃない?」
「あの噂ほんとだったんだ」
「社長もほんと冷酷だよね。
ずっと、重宝してた取引さきなのに
あんな、あっさり切り捨てるかね」
「そりゃ、ジュニアの気持ちも分かるよね」
「社長やることえぐいから、いつかやられると
思ってた」
「自業自得?」
「松枝、もう駄目なんでしょう?
そりゃあ、うちに切られたらねえ」
「ちょっと、いいきみ」
警備員に抱えられて、連れだされる男の人。
さとみの視界の中で、
社長が深く頭を下げた。
その表情は、
詫びるのでも、
怒りでもなく
ただすべてを受け止めていた。
ずぶ濡れで、
悪意をぶつけられて、
たくさんの視線に罰せられて。
凛と立っている社長。