タワーマンションの最上階。




都心を見下ろすような、天井まで届くガラス窓。




そこから差し込む太陽光で、




明るく、輝くリビングルーム。




現実味の感じられない空間。




そんな部屋を、下を向いたまま素通りする。




さとみには、豪華な部屋の家具も、
 



今は何も 




視界に入らない。




ただ前を歩く、この人の背中についていくだけ。




扉がひらく。




ベッドルームは広々としていて、物が少なくって




シーツのしわまでなくって。ホテルみたい。




この部屋も、ベランダ側は




壁一面大きな窓。




差し込む光が、明るすぎる




そう思ってカーテンを少し閉めてみる。




バリトンの低い声が聞こえた




「閉めなくていい」




ウイスキーを片手に戻ってきた社長が、




静かに言った。



ピクッ。




その声に、身体が驚く。




社長が、後ろ手にドアをゆっくり閉めた。




パタン



その閉まる音に



さとみの心臓が、いっそう 



うるさい音をたてていく。




『もう逃げられないんだぞ』 



そう言われたみたいに。