迷子の男の子のお母さんが来るまで、そう時間はかからなかった。

でも私は、その場でずっと動けずに、二人が砂場で遊んだりしているのをジッと眺めていた。


"彼は何という名前なのだろう"

"年はいくつなんだろう"

そんな疑問を頭で浮かべながら、心臓の音はずっと鳴り止まなかった。

入学式の日の夜は、明日からいよいよ高校生活が始まる、というドキドキとは別の意味でドキドキして眠れなかったことを、今でもしっかり覚えている。


次の日、学校に行ってその男の人の姿を見つけたときは夢かと思った。
またあの公園に行けば会えるかもしれない、なんて考えていたから。

そこで、"黒崎純"という名前も、一つ上の先輩だってことも知った。

だけど聞こえてきたのは、『黒崎先輩は冷たい』とか『近よらないほうがいい』とか、耳を疑うような言葉たちばかりだった。

だってあんな優しい人が、冷たいわけない。

泣いている男の子をあんな風に助けられる人なのに、みんな誤解してる。
けどそんなこと、入学したての私がいくら口で言ったって信じてもらえるわけもなく。