その青に溺れる


男は口にした言葉を忘れたように車を走らせ、見慣れた通勤路を通った先にある漫喫の駐車場へ滑り込み、既に消えた煙草を灰皿に落とし入れ、後部を確認しながら滑らかに駐車した。

『送迎有りか』と思いながらシートベルトを外し、ドアに手を掛けた時、

「荷物、どのくらいあるの?」と男が訊いて来た。

その言葉に苛立ち、それは口をついて出る。

「さっきから何ですか、少し説明するとか無いんですか」

突然キスをしたかと思えば身勝手な言動で振り回し、自己満足の行動で相手の気持ちすら考えない事に腹が立って仕方なかった。
大体、自分より年上なのに大人の余裕というものがない。
一体この人は幾つなのか、と考えて溜息を吐くと男は言った。

「悪かった……名前忘れたけど髭面から聞いた、リストラされて漫喫に居るって、
 だから、家で一緒に住もうと思って」

「はい?」

考えも付かない言葉に眉を潜め、思わず顔を見る。

ハンドルに片腕を預けて男は此方を見て口を開く。

「だって、その方が何かと都合いいだろ、交通費も掛からない、宿泊費も全部掛からない」

その口調はいかにも『何か問題でも?』と言ってるかのようだった。

「別に、結構です……」と告げ、ドアを開けて出る。

そしてドアを閉めるときに男が言う。

「10分だけ待ってやる、じゃないと今度は襲うぞ」