『地味で目立たなくてすいません・・・・・・』
その言葉を今まで何度取り出して来たのか、最早恒例行事になりつつある。
彼の妹は去り際に自分に向かって口を開いた。
「兄貴より俺のほうが若いし良いよ、色々と」
そう言って抱きすくめられ、カノンと同じような言葉が耳に流れる
「すげぇ、ジャストフィット感」
カノンも彼の妹もなにを言ってるのだろうか、
洋服の手触りのことだろうか、確かに面接だからとフィット感のあるスーツを着て来たけれど、これは所謂"眼鏡萌え"とかそういう部類だろうか、と考えていると不意に彼の妹が離れて行く。
やっと離れてくれたのかと思いながら何気なく視線を投げると、まるで猫を掴むように彼が妹の首根っこを掴んでいた。
そしてそれは乱暴に放り投げられると同時に言葉が滑る。
「アホかお前は、早く帰れ」
とても嫌そうな顔しながら彼は言い、自分の腕を掴み車のドアを開けて強引に乗り込ませる。
訳も分からず彼が乗り込む前にシートベルトをして窓側に身を寄せた。
彼は身を投げるようにシートに座り、シートベルトを掛ける。
一瞬此方を見た気がしたが視線は海に投げたままにした。
その手が少しだけ助手席に掛かったのが見えて、キスされるかと左側に集中したが何もされずに車は走り出していく。
防波堤沿いを走る車の風を切る音、打ち寄せる波の音が着いて来ていた。
一定の速度で走っていた車が次第に緩やかに速度を落とし、小さな旅館へと進んで行く。
10台ほど停められるスペースの駐車場に滑らかに停まり、彼は何も言わずに降りて此方を見下ろした。



