思わず見惚れてしまうほどの姿に深夜の歌番組を思い出す。
《ダーリン ぎゅっとして そのまま連れ去って 膝の上
ダーリン ハグをして そのまま連れ去って 天国へ
"あいしてる"なんて言えないけど"だいすき"で仕方ないの
この気持ち 止めるのは アナタだけ
ぎゅっとして ハグをして キスして連れ去ってオアシスへ
ねぇ ダーリン 冷たくしないで こっち向いて》
大きな瞳の片方を一瞬閉じ、見る者の胸を鷲掴みにした仕草と甘い声。
その体を現すに相応しい[カノン]と言う名前は誰にも文句の付けられない存在感だった。
ドアを開け、足を踏み込んだ途端、彼女は真っ直ぐに男に向かって行き、迎え入れた男とハグをして頬に唇を当てる。
それが彼女の国の日常とは判っていても思わず目を逸らしてしまう、そして再び視線を戻した頃には男は彼女の腰に手を回し、彼女は男の首もとに両手を絡ませたままで何かを語り合っているようだった。
それは久しぶりに会う"友達"のようで"恋人"のようにも見える。
しかし、それすらも此処では日常のようで、誰一人として目もくれず各自が所定の位置と思われる場所に着き、確認作業に入っている。
なのに自分は隙間で呆然とするだけの簡単な仕事に就き、そのうち手持ち無沙汰に絶えられず携帯を手にし、男の名前を検索しようとした所で節くれ立った手が画面を覆った。
「仕事中は携帯禁止、没収」と言いながら男は携帯を持ち去り、再び椅子に腰を下ろし、肘掛で頬杖を付き、もう片方の手で自身の携帯を操作し始める。
『自分はええんかい』と頭で芸人のように毒吐き、最後の砦を無くした自分は置き人形と化した。
それからどれくらいの時間を過ごしたのか、何一つとして情報は入らず。
一人が去って行き、また一人と数を増やし、そして彼女が去って行った。



