その青に溺れる


男性の口調はかつての職場で耳にしたことがある中年男性と一緒だった。
そこで誰とも判らない人に抱きしめられてる嫌悪感が生まれ、思い切って腕を返して掴み、質問を投げる。

「どちら様でしょうか・・・・・・」

何度見てもその顔に見覚えがなく、見つめ合う状態の中で男性の口が開く。

「今更過ぎない?その質問、でも仕方ないか、こんな格好だもんな」

その言葉と男性の姿が次第に彼女と重なり合い、一寸の狂いもなく完全一致で浮かんだ時、言葉として滑る。

「カノン・・・・・・」

完全に一致してるはずなのに出た発音は疑問符が付いていた。

「正解」と言いながら近づかせる顔に

言葉で制する前に手が動いて止める。

「待って、どうして?」

ショート寸前だった思考が誤作動を起こし、散らばった言葉や行動を取り出しては投げてを繰り返していた。

「えぇ、説明すんの面倒くさい」

カノンの口調で唯一取り出せたのが睫の多い女性の言葉。

『彼、男のほうが良いんだって』

思い出せば、稔が言っていたことも納得が出来る。
カノンは男で涼太も男、睫の多い女性は何も出来なくて自分に八つ当たりしただけ。
本当に自分はなんだったのだろうか、よく分からないまま時間だけが過ぎて行った。