部屋に入り、そのままベッドに直帰して突っ伏した。
煙草の匂いと微かな酒の匂い、そして消えかかっている香水の匂い。
体を起こし、ソファーまで引きずるように向かって座り込み、呆然と眺める。
必要な物以外は何もない部屋、彼女が来る部屋なのに可愛さの欠片もない。
同じ女の自分が居ても何も変わらない。
鴨居にぶら下がる枚数が変わることも、クローゼットの洋服が増えることも、シャンプーやリンスも増えたりしない。
思いつくままペンケースから鋏を取り出して浴室に向かい髪の毛を梳いた。
出来上がりの見栄えは全く変わらず、ボブがショートになっただけ。
体を流して頭を洗い、髪の毛を処理して浴室を抜け、着替えをして荷物を纏める。
クローゼットに入ってるのは彼が買ってくれた服のみ。
それを取り出し、ゴミ袋に入れて玄関先に置き、再びリビングに戻って一息吐く。
ふと自分が辞めたら彼女があの席へ座るのかと考える。
彼が通っていたクラブの煌びやかな女性達、睫の多い女性、そして彼女。
そのどれもが美しくて可愛らしくて細くて、護りたくなるような存在だ。
彼はずっとそんな人を探してたのだろうか、
それとも日替わりの食事をするように別々の人を置いていたのだろうか、
自分が朝シャワーに入ってる間に用意された炒飯を冷蔵庫から取り出し、ソファーに座りながら口へ運ぶ。
乱雑な具材も歯触りが良くないし、卵も絡んでないし、ソーセージの代わりにシーチキンが入っていて少しベタついているけれど、
『味は悪くない、味はね、でも、どうしてこんなに塩っ辛いのか・・・・・・』
綺麗に食べ終え、食器を洗って隅に置かれたギターに手を掛ける。
彼がそれに手を掛けるのを見たことが無いが、弦を弾いて手入れされている事が判る。
彼を知った頃に一生懸命覚えたコードを指が自然に覚えていた。



