彼は深い溜息を吐いたあとで包み込むように自分を抱きしめた。
そして耳元でキスをしながら言葉が落ちる。

「柚月が今それを知る必要はない、けど・・・・・・酒のせいじゃないことは確かだ」

その言葉は更に脳を混乱させ、最早ショート寸前の思考は投げ出すしか他に方法はなかった。
力を無くした自分に構わず彼はキスをする。
艶かしいそれは昨日の夜が尾を引くように長く深く続き、離れて呆然としながらソファーに深く沈んでいく。

「遅刻する、行くぞ」

「はい・・・・・・」

頬を数回叩いて腰を上げ、彼に続いて部屋を出て、いつものように職場まで向かう。
ドアを開ける背に続いて足を運ぶと、ソファーに睫の多い女性が座っていた。

その女性が立った瞬間香る微かな匂いは昨晩と一緒の匂いがした。
そして自分が彼とした事と女性が彼とした事を重ね合わせ、針を刺されたような痛みに眉を潜める。

「昨晩はありがとうございました、とても楽しかったです」

「もう二度とないと思いますけど」

女性の言葉に彼は一瞥し、そのまま椅子へ向かい腰を下ろす。

「昨日もそんな事言って、結局来たじゃないですか」

『痴話喧嘩は他所でどうぞ』と自分は毒吐き、そのままドアの傍で佇む。

「もういいですか、仕事があるので」と彼は言いながら煙草に火を点け、

白い煙と共に「あと、もう来なくて結構です、その仕事捨てます」と声が聞こえた。