近づく綺麗な顔と唇、優しい目、頬を通る大きな手に顔を逸らす自分。
そこで時が止まったように涼太は静かに息を吐いて言う。

「お遊びはここまで、携帯貸して」

何も出来ずに固まる自分のポケットを探り、バッグに手を掛けて携帯を持ち出し、涼太は一通り携帯を眺めて操作しながら言葉を吐いた。

「最初から分かってたよ、柚月がどう思ってるかなんて、分かり易かったからね」

その言葉に思ってるままに口が滑る。

「遊び、だったってこと、ですか……」

「だったらなに?そろそろ限界でしょ、彼も」と言って涼太から携帯を投げられ、受け取る間にも言葉は続く。

「もう辞めたら?柚月に合ってないよ"付き人"なんて」

投げられた携帯の画面には彼からのメッセージが表示されていた。

『悪い、仕事長引きそうで迎えに行けない』

ずっと押し通してた意見だったのに、自分が断っても彼なら来るなどとどこかで思ってた。
涼太の言葉と彼の全部が重なり合い、そこで改めて辞めようとしてた事を思い出す。

「そう、ですね、そう、します……」

その声は次第に遠くなる波の音と共に消えて行った。
最寄の駅で何も言わずに車を降り、何事も無かったように車が去って行く。
既に辺りは暗く、道を照らす街灯が何本か消えかかっていた。

当てもなくコンビニに寄って本を捲り、適当に時間を潰して彼の家に足を運ぶ。
駐車場にある車、玄関先から無くなった自転車で彼が今何をしてるのかが判る。
携帯を取り出し、表示した時計は午後10時前を記していた。