フロントガラス越しに見える波が強く砂浜を蹴り、寄せては返す音が耳に届く。
暫く二人で眺めて、先に涼太が口を開いた。
「佐伯さんに付けられたの?その跡」
思わず首元を手で覆って隠す。
「意外と激しいんだね、彼」
その言葉に何も答えられずに黙る。
涼太は隠していた手をそっと掴んで言う。
「上書きしてあげようか、それ」
再び何も言えずに固まる自分に涼太は言葉を続ける。
「だって、彼氏じゃないでしょ?あの人、それとも彼氏じゃなくても柚月はそういうことするの?」
そう言われて、どこをどう否定すればいいのか分からなくなった。
自分には"彼氏"がどういう物なのかも印の意味も何もかも意味が分からない。
「彼氏って、なんですか?」
思った事が口を滑っていく。
「よく、わからないです、そういうの、どうしてこんな跡を付けられるかも、全然分かんない」
静かに繰り返す波の音の中、涼太は言った。
「じゃぁ、俺としようよ、佐伯さんと同じこと」



