その日、初めて嘘を吐いた。
寝る前のルーティンワークの後で離れていく顔に告げる。
「あの……来週の金曜お休みください……」
「どうして」
彼が上から見てるせいか視線が下がり、冷たい目に見える。
「……姉の結婚式が、あるので……」
平然を装うけれど、呼吸は短く視線は右往左往していた。
「いつ帰って来るの」
「朝、行って、夕方か、夜くらいには……」
言葉が上手く滑らず、唾を飲み込んで吐きだす息は震えていた。
そこで彼は自分をじっと見つめて黙る。
目線の合わせられない自分は居ても立ってもいられず、挙動不審になって、ふと馬鹿馬鹿しくなった。
どうしてこんな風に気を遣わなければいけないのか、彼は上司……と考えた所で疑問が浮かぶ、彼は一体自分に取って何だろうかと。
その答えを探しながら何処か遠くを見つめていると、重なる影に自然と目が閉じていく。
それは少しだけ長いキスで、何度か優しく唇を押し当てた後、首元を鼻が擽って鎖骨に唇が落ちる。
「どうして、跡、残すんですか……」
何も考えずに言葉が滑り出し、訊いても意味は無いのに、その後の事など考えもせずに返らない答えを待っていた。



