彼の言葉を皮切りに涼太が食い下がる。

「佐伯さんも同じこと散々して来たでしょ、それと何が違うの」

「その言葉自体が間違ってる」

それをあしらうように足を進め、いつものように椅子に腰を下ろす彼。

それが仕事の合図だと知ってても涼太の口は止まらずに言葉を投げつける。

「なんなの、少し売れてるからって調子に乗り過ぎでしょ」

彼は前を向いたまま肘掛で頬杖を付いて黙った。
静寂に包まれる中、ライターの音が小さく鳴り響き、白い煙が上がって消えていく。
険悪な雰囲気に耐えられず席を立つと涼太の手がそっと掴んで来る。

それを知ってか知らずか、彼は自分に声を掛けた。

「柚月、そのまま帰っていいぞ」

その言葉を文字通りに受け止めれば涼太も一緒に此処から出て行けと言う指示になる。
だがしかし、どう考えてもその雰囲気は無い。

「……すいません……いいですか……」と涼太に目配せをし、手を離して貰えるように促した。

然程強くも掴んでないのにその手は硬く握られ、手で払おうが指を入れようが動きもしなくて、思わず手の甲に爪を食い込ませる。
少しだけ痛みに歪んだ顔をさせ、それでも涼太の手は離れなかった。
どうにも出来なくなり、爪を立てたままの状態に彼が言葉を投げる。

「なぁ、柚月のこと好きなのか」

「だったらなんなの」