その日の夜、と言っても深夜を過ぎた時間帯。
お互い様々な工程を終え、あとはベッドに入って文字通りに寝るだけの状態の中。
彼はベッドの足元に座り、自分はキャリーケースの中を整理していた。
一枚一枚丁寧に丸めながら仕舞う手を彼の声が止める。
「なぁ、クローゼット使ってもいいぞ、面倒だろ、それ」
「まぁ……多少は」
先程の車の中での件が尾を引いて気まずくなってしまう自分。
そんな自分に構わず彼は質問と共に言葉を投げてくる。
「あと、荷物どうしてんの?預けてるなら持って来てもいいぞ、でも最低限な」
「はぁ……」
そう言われても必要な物は大体此処に揃ってるので態々取りに行く程でもない。
処分しようかと一瞬頭に浮かべて直ぐに消した。
そもそも、ずっと此処に居られる訳でもないのに処分してどうするのか、
この仕事をしながら安いアパートでも探そうと思った。
どこか良い物件でもないかと携帯を取り出し、検索する手を再び彼の声が止める。
「そうだ、忘れてた、給料1週間分振り込んどいた」
『なんだい君は超能力でも使えるのかい?』などと頭でふざけながらも指は勝手にネットバンクを確かめていた。
そこには彼の名前と平均的な1週間分の数字があった。
『なんだ、きちんとお給料あったのか……』と思いながら目線が自然と彼の唇に向かう。
整えられた口髭、少し濃くて乱雑な顎髭、バランスの良い厚さの唇。
見ように寄ってはイケメンに見えなくもないが、やはり猿に近い。
彼が猿なら自分はなんだろうか、と考えた所で彼がベッドに入るのが見えた。



