自分が乗り込むと押し付けるように袋が目の前に置かれる。
「なんですか……後ろに置けばいいじゃないですか」
顔に纏わりつく袋を払い除け、引き気味に袋を抱え込む。
「明日からそれ着て」
「私が、ですか?」
自分が今まで着てたのは濃いグレーのスーツ。
あの普通のスーツに何か機嫌の損ねる要素があったのかと考え、ポケットに紙を入れたままな事に気づいて袋を漁る。
「……何してんの」
「いや、今まで着てたスーツを探して……」
「捨てた」
「はい?」
簡単に飛び出した彼の言葉に耳を疑い、言葉が滑る
「どうして捨てたんですか」
彼は煙草を口にし、火を点けて吐き出して暫く黙った。
「聞いてるんですか」と食い下がると
「聞いてる、柚月は"付き人"だからスーツは着なくていい、そういうのは業界人だけだ」
そう言って彼は車を走らせていく。
「だからって捨てなくてもいいじゃないですか」と更に食い下がらずに口にした。



