その青に溺れる


個室に入り、朝方に散らかした洋服を手に取ってキャリーケースに乱暴に詰めていく。
男の言葉には確証が在った、自分を八方塞がりにして罠を仕掛けているのが判る。
物好きな奴も居るものだ、と毒づきながら苛立ちは収まらず。

『誰があんな自分勝手な奴に襲われるものか、どうせ付き人など出来ないと
 高をくくって見てるだけだ、やってやろうじゃないか、付き人と言う物を』

苛立ちを糧にし、キャリケースを2つ引いて個室をあとにした。


車に近づくとトランクが開き、自分は『ご丁寧にどうも』と頭で呟いてキャリーケースを押し込み、思いっきり閉めて車に乗り込む。
そしてシートベルトをし、右側に体を傾けた途端、手が脇を滑り込み、抱すくめられて唇が重なる。

二回目のキスは少し強引だった。
弄るように這い回り、僅かに差し出した先を捕らえようと唇が塞がれ、口内で追い求められ、なぞる先を少しだけ真似するとそれを何とか絡めようとし、唇を押し付け、逃さないように頭を押さえつけながら激しく口内を掻き回され、啄ばむ唇に荒い息が漏れ、次第に顔が離れていく。


「悪くない、でもまだまだだな」と鼻で笑う男の言葉に我に返り、目の前の髭を摘んで思い切り引っ張った。

「い、ってぇ……」と言いながら顎に手を当て、首を鳴らす仕草をして男は溜息を吐く。

そして続けざまに言う。

「怒ることないだろ、キスくらい誰でもするだろ」

『これだから未経験者は』と今にも付いて来そうな台詞に

「はい、そうですね」と棒読みの台詞を吐き、視線を前に投げると目の前の景色が死んだように濁っていた。