毎年恒例の花火大会、迷った様子の岸さんの決め手は暦だった。

「この花火大会は日付が決まっていて、平日開催の年もある。今年を見送ると、来年は月曜と火曜になるから、行くなら今年のほうがいい」


 足を伸ばせば、大小さまざまな花火イベントが観られる。住んでいる街にもあるけれど、岸さんと都合を合わせていくのなら、有名なところへ行ってみたかった。
 岸さんはと尋ねると、あの花火は何度観てもいい、と珍しく心酔した様子で短く言い切っていた。そこまで言うのなら、と期待値が増した。



 午後から有給を取った。

「似合ってる」

「岸さんも、さすがです」

 浴衣を着た私を一目見るなり、岸さんは褒めた。私も褒めかえした。
 目的の半分が達成された気持ちになった。


 いつものように岸さんの運転する車で現地入りし、人でごった返すまえに早めの軽い夕食を済ませた。
 あちらこちらで花火観覧用にと軽食やアルコールを含めた飲み物が目についた。見渡せば、行き交う人の数がだいぶ増えていた。
 会場までそう距離はないのに、帰りは徒歩で一時間近くかかるのだという。それだけ来場者が多いということだ。


「浴衣でというからこっちの場所にしたけど、近い席がよかった?」

 川沿いの有料席を押さえることもできたのだという。さっき話していた『帰り道が徒歩一時間ルート』だ。

「近くで観られるってことは、帰り道が大混雑するんでしょ?」

「ライブのあとの規制退場並に」

「それはきつそうだ」