翌日、仕事終わりに着つけの体験教室に立ち寄った。ゆかたのレッスンをしていて、思いがけず同年代が多い。当座の目標は夏の花火大会、そんな声がちらほらと聞こえる。

「あの、今から習って、月末までに着られるようになりますか」

 岸さんとの花火の約束があった。昨日、念を押したら岸さんもそのつもりでいた。

「勿論。目的があったほうが覚えが早いわ」

 講師の微笑みに力を得て、その場で申し込みを決めた。



 建物を出たところでスマートフォンが鳴る。岸さんからだ。

『飯、もう食べた?』

 メッセージアプリに短文が上がる。
『済ませていても一緒にお茶くらい飲んであげる』と返信すると、即座に通話が入った。

 まさかとは思う。けれどもやたらと機動力の高い岸さんのことだ。実は近くにいて、急に目の前に現れる、なんてことも起こりうる。
 着つけ教室のことはまだ伏せておきたかった。ひっそりとバージョンアップしたい。

 私は足早に場所を移動し、呼吸を整えてから画面をタップした。



  — さよなら、片想い・本編 終 —