私なりに気を遣った。

『忙しいからしばらく会えなくなりそう』

 岸さんからそう言われ、三週間くらい、こちらからの連絡を控えていた。スマホの過去のメッセージ画面を読み返しては閉じる日々。
 新しい職場だから、人にしろやりかたにしろ、憶えることがたくさんあるのだと思った。

 そろそろ連絡してもいいかなあと十回くらい迷ったのちにメッセージを送ってみたら、すぐに電話がかかってきた。


『週末、って金曜?』

「金曜でも土曜でもどっちでもいいけど。ちょこっとでも会えないですか?」

『金曜は納涼会があるんだ』

「納涼会、早っ! まだ七月になったばかりなのに」

『毎年ビアガーデンを使うって決まっているんだって。年間予定に組み込まれているんだ。他にもパターゴルフ大会だの紅葉狩りだのあるって』

 社内イベントの概要を聞き、岸さんはもう違う会社の人になってしまったんだな、としみじみ思う。

「じゃあ土曜日。土曜日の適当な時間に遊びに行っても……?」

『都合悪いんだ。日曜も』

「そっか。忙しいって言ってたもんね」

 わかったような返事をしておいた。どうにもならないもやもやが募った。


 一目会えたら、食事だけでも、お茶するだけでも、五分でもいいからと、週の真ん中に岸さんのマンションを訪ねてみると留守だった。忙しくなると聞かされている以上、今どこにいるのかと聞くのも躊躇われた。
 たぶん、仕事。勝手に待つしかないと思った。
 帰りのバスの時間を気にしながらドアの前でしばらくいた。
 結局、岸さんとは会えなかった。