「ちー兄、覚えてる?小さい時、あたしがこの鳥居に落書きしたときの事」



「あぁ、覚えてる。まだお前がこんな小さかった時にな」



そういって、古屋千秋は自分の足元に手の平で線を作って見せる。



「あの時一緒に怒られてくれたんだよね」



「お前の保護者代わりみたいなもんだったからな、懐かしいな…」



「あれ、残して置けばよかったのになぁ」



私はもう消えてしまっている朱色を、まるで落書きが見えているかのように指先でなぞった。


その頃書いたのは確か古屋千秋の似顔絵だったような気がする。


親や大人たちにこっぴどく怒られて、古屋千秋だけは優しくなだめてくれて、確か二人で雑巾で拭いて消したような気がする。


クレヨンしか持っていなかったあたしは段々と消えていく古屋千秋が厭で、何度も駄々を捏ねては古屋千秋を困らせた。



「『ちー兄が消えちゃうのヤダ』って、愚図ったんだよね」



「そうそう、あれには困ったなぁ。『此処にずっといるから、消えないよ』って何度も言い聞かせて漸く笑ったんだよ。お前はホント、いろんな意味で手を焼かされたよ」



困ったような、楽しいようなそんな複雑な表情で古屋千秋は思い出して笑って、鳥居を撫でた。


それから私達は神社の奥を抜けたところにある、閑散とした殆ど遊具のない公園へとやって来た。


この公園にあるのはシーソーとジャングルジムだけ。


私はシーソーに乗ろうと、古屋千秋を誘った。


乗り込むと、案の定私は浮き上がったまま下に脚をつけることが出来ず、逆に古屋千秋は低く腰を落としたまま浮き上がることが出来なくなった。