『ゲーセン得意なんだよ。 うん、殺風景な家にはこれくらいの可愛げがないと』
「ねえ、勝手に荷物を増やさないでよ」
『え、今さらそれ言う?』
「明日は可燃ごみ出す日だっけ」
『わー!! ごめん、ごめんなさい』
「男ばかりの部屋にファンシーなアニマルグッズ置かれても困るんだけど・・・」
『はい、すみません』
「子供じゃないんだし、これ以上ゴミ増やしたらどうなるかわかってんだろーな」
『でもね、この地味な部屋も悪いと思うの。華やかになっていいじゃない』
「この家の家主は?」
『西郷兄弟です』
「そう。“ここ”では僕達がルールなんだよね。 逆らったら解雇だから」
『ひどい・・・』
あの後、僕に邪魔だって言われて結局目立たないところにしまったんだっけ・・・。
でも、染谷さんがいなくなって屋根裏部屋を物置部屋に利用するようになって。
気付けば、染谷さんの置き土産をいくつかみんなが飾るようになった。
「“これ”が僕たちの家だ」
希薄だった3ヶ月半。
それでも、脳裏に広がった過去の光景は郷愁を呼び起こした。
付き合いが短い僕たちですら、寂しい。
もっと長い時間を過ごした父さんは、言うまでもないだろう。
「あの人も変わってたもんね〜。 今も、飄々とマイペースに元気でやってるじゃないかな」
「あー、まあな」
みんな、目線を合わせないようにしてる。
・・・・・・。
分かりやすいな。
ああ、そうだね。
話さなくても、その反応・・・分かっちゃうよ。
本当にそうであればいいと、心の中で願った。
・・・と、そのとき来客を告げるインターホンの音が響いた。
「あ、僕が出るよ」
居心地の悪さを誤魔化すように素早く立ち上がって、玄関へと向かう。
空気が切り替わったおかげで、ほんの少し冷静になれた気がした。
「どちら様ですか?」
「郵便でーす」
「あ、はい。 今開けます」
ーーーガチャ
扉を開けると求められるままにサインをして、郵便物を受け取った。
「誰かのファンレターかな」
なんのけなしに、封筒を裏返す。
「え・・・」
飾り気のない白い封筒の裏、書かれていた名前は・・・カナリア。
カナリア・・・?
・・・ああ、黒猫の名前か。
直接的に会うのは難しいから、こうして僕たちだけに分かる偽名を名乗るなんて、バカなりに頭使って考えたんだ。
書かれた名前を指でそっとなぞって、踵を返す。
ヒロトさんたちのところへ戻る足取りは、自分でもびっくりするくらいに軽かった。