ーーーあれから、2年経った。
兄さんを撃った私は、自分を見失っていた。
呆然としていて、兄さんの仲間が声をかけても反応を示さない。
どうやって帰ったかもわからないまま、自失状態の私を、アイジさんの奥さん(第一夫人)に保護?された。
その翌日、私は東京を訪れた。
私はずっと、それからアイジさんの息子たちを影ながら見守ってきた。
携帯から着信を知らせる音。
サクラさんだ・・・。
ーーー“気分転換にバーでも行く?いい男紹介してあげるわよ”
私は「また今度」と返信し、もう一度、新宿の雑踏を見てから、珈琲店を出た。
人の声や車の音が一体となり、ゴウゴウという塊のような音となって街を包み込んでいる。
私は、平穏な日常を手に入れた。
・・・・だけど。
この街に、アイジさんだけがいない。
期間限定の恋人でもいい。
この街でアイジさんと一緒に、安らかな最期を見届けたい。
そんな偉そうなことを言っていたのは、それほど前の話でもないのに。
こんな未来なら、来なければよかった。
今は、そう思っている。
“私は・・・”
死にたい。
死んで、全てなかったことにしたい。
「ユリ」
誰かに呼ばれた気がして、懐かしい声を聞き逃すまいと目を閉じる。
「俺もさ、アンタに負けないくらい、アンタのことが、好きだよ」
アイジさんは、私のことを好きでいてくれた。
だから愛しあって抱き合えた。
今さら、どれだけ想われていたかを理解するなんて、バカすぎる。
「俺のために、今を生きろ」
生きなきゃいけない。
心が死にそうになるくらい苦しいのに、兄さんを殺してまでこの街に来たのは、アイジさんの心に報いたいからだ。
こんなにも、死にたくないと思わせるなんて。
“・・・アイジさんは、狡いよ”
息子たちはきっと、自暴自棄になってる。
アイジさんの奥さんたちから、息子が悪い男達とつるむようになったと聞いてとても焦った。
大事な人があんな屈辱的で悲惨な殺され方をして許せるわけがない。
光を失ったような、昔の私と同じ死んだ目をしているだろう。
だから、私が迎えに行かなきゃいけない。
かつて、アイジさんは私を見つけてくれた。
なら次は私の番だ。
