ライブ成功の乾杯をした後、私たちはそのまま洒落たバーを後にしていた。


「で、話ってなに?」


『・・・・・・・・・』


改めて切り出されて、私は言葉に詰まった。

気を抜くとまた涙腺が緩みそうで・・・。

でも、ヒロトさんにも悟られちゃいけない。


『前に言ってた・・・作詞作曲した曲を聴いたときの話。 ヒロトさんは・・・嬉しそうに感想を伝えてくれたよね』


「・・・・・っ!」


兄さんに取り引きを持ちかけられたあの日、古賀さんと話した後、自分なりに考えてみた。

昔の私はそりゃもう尖っててね。

ストーカー被害に遭っていた女性の現場を偶然通りかかった男が助けるためにとった正当防衛を過剰防衛で有罪だと知ったその直後に、“そんな理不尽許せるかコノヤロー!”と息巻いてたわけ。

もちろん、私の仲間たちもね。

だけどまあ、結果は惨敗。

気持ちだけで人は救えないのだと骨身に染みた。

昔の私は無力だった。


『自分の好きな曲を作ってるってより、誰かを楽しませようって気持ちで譜面を書いたと思う。 だから・・・あの曲にはたくさんの想いを込めてるの』


どんな想いか、なんて。

あえて口にする必要はなかった。

それはもちろん昔の私を見せることになるし、【Roselia】の名前を口に出すのは避けた、という意味もあるけど・・・。

それ以上に、言わずとも私たちの中では当たり前の想いだったからだと思う。


「届くといいな、その想い」


届く。

届かせる。

待つだけなんて性に合わないし、私ができるのは最初からひとつだけ。

私が今できる最高の曲を・・・ひとつでも多くの音を、あの人に届ける。

私の知ってる兄さんの、全てが偽物じゃなかったとしたら・・・。

この音が届けば、いつかは絶対に応えてくれる。