「正義は悪に屈しない」


キョウさんは目線を落とすと、自身に言い聞かせるように静かに呟く。


「だから今の俺がいます。 先輩が先輩でいられるように・・・間違っても、テロ組織の仲間にならないようにしなきゃいけない」


「・・・・・・」


「先輩は強いけど・・・意外と心は繊細なんで、人の痛みには敏感なんですよね」


「そっか」


「おまけに頑固で弱さを見せない人ですから、俺も心配なんですけど・・・あ、この話は先輩には他言無用ッスよ」


先輩のことよろしくお願いします、とキョウさんが頭を下げる。

隣の五十嵐先生が慎重な目でキョウさんを見ていた。

だけど、今の俺にとってキョウさんは西郷家に害を及ぼす危険人物ではなく、ユリさんの大切な友人でしかなかった。

だからこそ、こんな言葉が口をついて出た。


「・・・俺たちは、ユリさんにとって父さんの息子っていう価値しかないよ」


「そんなことないッス!」


「でも好き好んで悪い男の世話なんか・・・」


「そうじゃない。 先輩はむしろ、誰よりみなさんに認めてほしいんだと俺は思います」


キョウさんはそう言って、もう一度、俺に頭を下げた。


「先輩言ったんです。 ケンカ三昧だったあの頃よりも家事に悪戦苦闘してる今の自分の方が気に入ってるんだって」


「そうなの・・・?」


「そうです。 でも今の先輩は迷って、悩んで、感情に振り回されて・・・ぶっちゃけ!カッコ悪いです!」


「え?」


「終わりは確実に近づいてます。 いつまでも先輩の優しさに甘えてたらダメッスよ! 自分から歩み寄る努力をしなかったら手遅れですからね!」


「うん、分かってるよ」


「・・・俺は誰よりその苦しみを知ってるから。 ユウタさんにも、俺の仲間にも、あんな思いはさせたくないんです」


「キョウさん・・・」


キョウさんはとても苦しげな顔をしていた。

それがひどく印象的で、心の奥にキョウさんの言葉がしっかりと刻み込まれるのを感じた。