「開場始めまーす! みなさんこちらの列に並んでください!」


っと、もう開場時間か。


「・・・ほら、行くぞ」


「はーい」


俺たちは、さっきの子たちから離れるように開場入の列に並んだ。

ステージ上の兄さんの目に入らないように、俺たちは一番後ろで待機していた。

開演前だというのに、端々から女の子たちがメンバーの名前を叫んでいる。

少しでも前に行こうとする子たちの動きが、まるで波を作るようにうごめいていた。

五十嵐先生は、ただただ場の空気に圧倒されて、悲鳴が上がる度に眉間のシワを増幅させ、思いっきり顔をしかめていた。


「鉄仮面はやめましょうね」


「うるせえよ、エセ紳士」


そんなやり取りをしていると、ステージ上にピンスポットでライトが当たる。

そこに立っていたのは、いつも弟たちからなめられている兄さんの姿だった。


「・・・今夜、死の祝祭が始まる」


その一言で、あれだけ騒いでいたファンの子たちが口を閉ざし、場が静まり返る。


「ここにいるみんなが、仮面を被った餌。 覚悟、できてる?」


ワアアアアアアアアア!!!


「足りない。 ・・・覚悟は?」


ワアアアアアアアアアア・・・!!!


「OK。 それじゃまず、この曲からいこうか」


兄さんがそう言って音楽の合図を出した。

ズンズンと重い音が身体に響いてくる。

音の圧力と観客の熱気が混ざりあって、俺は心地いい冷や汗を流していた。

だけど。


「・・・・・・」



ステージ上でギターを奏でているのは紛れもなくカナリアことユリさん、その人なのに・・・。

髪の毛を左に流しワックスで綺麗に決め、顔の右横の髪を編み込んでカラフルなピンで纏め、黄色のメッシュを一本入れ、三つのピアスがちょうどいい感じに見え、衣装を誰よりも格好よく着こなし、赤のチョーカーをつけ、クールで男らしいキリッとした顔で微笑む・・・。


「ユリさん・・・」


男装した染谷ユリさんは、いつものふわふわした雰囲気からはまるで別人のように様変わり。

本物のミュージシャンのように見えていた。