ユウタside
空に月や星が輝き始めた頃。
変装してライブ会場に向かうと、女の子がひしめく中、居心地悪そうな五十嵐先生の姿があった。
「五十嵐先生、お待たせしました」
「いや、俺も今来たとこ。 それより・・・」
五十嵐先生は顔馴染みな紫苑学園の女子高生へ目を向ける。
独特なファッションに身を包む女の子達ばかり。
こういうのを、バンギャと呼ぶのだろうか。
「補導される時間だぞー」
「何ですかその仮にも教師だから、建前上は仕方なくみたいなノリは・・・」
「まーまー、細かい所は気にすんな」
「そこまで開き直られると、いっそ清々しいくらいですよ。 誤魔化し方も雑ですし」
「つか西郷次男、お前・・・チケット取れなかったんじゃなかったのか?」
「あー、ユリさんが譲ってくれました」
「染谷・・・なんかお疲れさん」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
五十嵐先生は困った顔をしつつ、聞いてくれるなよと目で訴える。
と。
「西郷次男・・・俺たち、浮いてないか」
「平気な顔してください。 キョドってる方が浮いて見えますよ」
「ああ」
短い返事で頷いてはいるけど、こういう雰囲気には慣れないのか、五十嵐先生はきょろきょろと辺りを見渡していた。
すると。
「てかさー、ソロ活動やめるって話」
「あー・・・アレ? 期待の超新星」
「そうそう。 今日はサポメン出るんでしょ? なんだっけ名前。 ギターの」
「カナリアだよ、カナリア!!」
ビクッ!!
突然カナリアの名前が出てきて肩が跳ね上がる。
カナリアって、あのカナリア?
兄さんが昔飼ってた黒猫の名前だよね。
懐かしいな・・・。
「ヒロ君がスカウトしたらしいから確実! 超楽しみ〜♪♪」
「え、KANO直接聞いたの?」
KANOちゃん!?
あの子が兄貴のストーカー?
「うん! いつものバーで張ってたらビンゴ♪ 相変わらず全然構ってくれなかったけど〜」
あ、俺の苦手なタイプ・・・。
相手の心中も知らず、女の武器を使ってぐいぐい攻める子は好きじゃない。
兄さんの口癖を借りると、そうだな・・・。
ごめんと心の中で手を合わせる。