「杞憂で済んで安心しましたよ」
聞いていいものか、迷う。
だけど、これを聞かなければ話にならない。
私は・・・躊躇いながらも問いかけた。
『不登校ってことは・・・、過去に学校絡みで何かあったの?』
ルナさんは首を横に振ると、さらりと答える。
「みんな僕を神と崇めて、どいつもこいつも虐めてくれないんです」
また出た、謎の神ワード・・・。
「勉強より楽しい遊びを知ってるのに」
『ーーー・・・』
予想だにしなかった事実に、私は息を飲む。
「向こうーー裏社会じゃよくある話だ。トチ狂った悪ガキ連中が、遊び半分で薬に手を出す」
うん、知ってる。分かるよ。
「僕は、暴力が好きなだけ。 身体に傷がつくと興奮するし、血の匂いを嗅ぐと幸せで・・・」
そう言って、ルナさんは携帯で可愛い犬の画像を検索した。
仲間を統率する者の声。
「いいですよねぇ、仲間がいるのって」
ルナさんは淋しそうに呟く。
共働きの両親の元に育った私は家族との思い出がほとんどない。
その中でも複雑な家庭環境の元に育ったルナさんは、たくさんの兄弟がいて引き取ってくれる身寄りがいる。
けれど、そのルナさんですら、自分は“一人”だから仲間がいるのがいいという。
贅沢すぎる悩みじゃない・・・?
疑問が膨らんでいく中、堕天使ウサギが私をじっと見ていることが気づく。
「家政婦さんも、母さんも、兄弟も、みんな大好きだから僕が殺してあげます」
その言葉に、さっと血の気が引いた。
私は素早く懐に手をかけ、いつでも銃を抜けるようにした。
「・・・が、ただ遊び相手がいなくなるのも退屈ですしね。 母さんの味を再現しようと苦手な料理を頑張ってくれた家政婦さんに免じて、チャンスをあげましょう」
『え・・・?』
私にはルナさんの言うことがすぐには理解できなかった。
いや、理解したくない。
「幽霊族の異名を持つ伝説の蜃鬼楼とその総長を殺し、僕自身が真に最強であると確かめたいんです」
私の心を見透かすかのように、ルナさんが辛い現実を投げかける。
怯むことなく勝負を売ってくるルナさんに、私は楽しそうにニヤリと笑った。
