「弱さは負けることじゃなくて、諦めることだと思うんだ」


『うん』


なけなしの希望を手に、崖っぷちを進もう。

そう、自分に言い聞かせる。


「お前には、変わる未来を見届けてほしい」


言いながら、自信なさげにシュウさんの視線が泳ぐ。


「俺たちは、目的のために必死になってる。 扱いづらい歪んだ野獣だけど、長い目で見てやってよ。長期戦は得意そうだもん、家政婦さん」


そう続けられて、自然と笑みが浮かぶ。


『ふふっ、シュウさんってほんとにみんなのピエロみたいだよね』


他人と付かず離れずの距離感を保ちながら自分のテリトリーを線引きし、不測の事態にも臨機応変に対応するベテラン。

人に笑われることに特化した役回り。

底抜けの笑顔と明るさと気遣いで周囲の平和をなんとか維持しようとしてくれる平和の象徴のような人だ。

それこそ、自分の気持ちを後回しにしてまで穏やかな雰囲気を全力で守ろうとする。

初対面(一方的に知ってるだけ)の私がシュウさんに対して棘を感じなかったくらいには、自然な立ち振る舞いだった。

まあ・・・不思議な人では、あるよね・・・。


「勘弁してよ」


本気で嫌そうな表情のシュウさんを見て、また笑いが込み上げる。

ていうか、「変わる未来を見届けてほしい」の意味は、私が“ここ”にいてもいいって、そう都合のいいように解釈してもいいんだよね・・・?

そんなことを思いながら、気の抜けた欠伸を小さく零す。

私は夜型だから、朝はものすごく弱い。

そんな感じで睡魔に襲われてる。

ZZZZZZZ・・・。


私が二度寝してる間に、


「よかった」


『・・・すー・・・』


「やっぱ“ユリ”は悪い奴じゃないな」


『・・・くー・・・』


「だって、背中は死角だから」


シュウさんは何故か起こそうともせず、自分の肩に私の頭を載せたまま・・・花が咲いたように、ふわりと笑った。

その声色は心から嬉しそうで、やけに温かかったのをぼんやりと覚えてる。

私は眠りと覚醒の間を彷徨っていた。