でもね?
叫ぶために息を吸うように、高く飛ぶためには助走があって、笑うために一人涙を流すんだ。
疲れたら羽を休めて、また飛べばいい。
シュウさんにも帰る場所はあるから、それを目印に走ればいいよ。
振り返らずに歩けるように・・・。
生きていけるように・・・。
『私にできるのは、シュウさんやみんなの帰る場所を守ること』
自分の手が届く範囲で人を助けたい。
蜃鬼楼にいた頃から、その考えはずっと自分の胸の中に眠ってる。
正義は涙の数だけ存在するけど、その覚悟を最後まで貫き通す人は少ないのが現実。
私は、口先だけの人間にはなりたくない。
『でも、そのためにシュウさんのことが心配で仕事が手につかなかったら意味ないよね?』
「まーそうだね〜?」
『夜遊びするな、なんて言わないよ。 だから、朝帰りだけはしないで。 お願い』
「・・・・・ん」
心から納得してくれたかはわからないけど、シュウさんは小さく頷いてくれた。
『この世界は涙ばかりじゃない。 シュウさんの心は温かいよ』
「ははっ。 俺のこと温かいって、初めて聞いたわ」
『そうなの?』
「うん。だって俺、兄弟とか周りには冷めてる奴だってよく言われるし」
シュウさんは気が抜けたのか腹を抱えて笑い転げると同時に、 その場にへたり込む。
海色の瞳には、薄らと涙が滲んでいる。
『ちゃんと笑えるんだね。 あの胸糞悪い微笑みよりもそっちの方が似合ってるよ』
「染谷・・・?」
私はおもむろに座り込んだ。
シュウさんの背に、体重を預けるように。
触れた広い背中が、温かい。
