『こんなの、食べれたものじゃないよね。 捨てようッ』


待て待て。


「何言ってるんですか、ダメですよぅ!」


『何で?』


「焦げてる部分を取り除けば、食べられます」


箸を手に取り、焦げを丁寧に落とす。

一口食べて・・・ほんのり甘い味付けに目を見張る。


「これ・・・」


『サクラさんが作った卵焼きの味に近づけようと思って、砂糖入れてみたんだ』


「ふーん? そうなんですね?」


『どう?』


おいしいです。

嬉しいです。

ありがとうございます。

たくさんの言葉が浮かんだけど、どれも言葉にならなかった。

父さんが亡くなったショックで傷心してたせいもあって、胸がいっぱいになって・・・。


『ルナさん、どうしたの?』


泣きそうだ。


『あ、言葉も出ないほど不味かったとか?』


「うん、甘すぎ」


ユリさんの愛情がッ・・・。


『正直でよろしい。 やっぱり慣れないことはするものじゃないね』


指傷だらけじゃないですか・・・。


『なにか代わりのもの、買ってくるよ』


「ユリさん」と引き止めるように呼んだ僕を居住まいを正した家政婦さんは、何を言われるのかと身構える。

そんで聞き耳を立てる、5匹の野獣。

慣れないアドリブに緊張して乾いた喉に、ぐいっとお茶を流し込んだ。


「僕、甘いもの好きなんですよぅ」


『うん』


「8時以降の間食は太るからやめときます」


『そうだね?』


「だから今日はもういいので・・・。デートの誘いとかじゃないですよ。 今度・・・駄菓子屋さんに・・・付き合ってくれませんかぁ?」


『もっちろん!』


「ふふ・・・楽しみにしてますね」


照れてないッ。

買い出しのついでみたいなもので・・・こんなのただの気まぐれ、リア充側のことは考えたこともない。

そうじゃなきゃ・・・ネトゲ(ネットゲーム)の世界にハマり、引きこもりになんてならない。