『あの人の愛人、とか?』
途端に、男の人の声音が苦痛に満ちる。
西郷ハルカ。
兄弟唯一の同級生。
金茶の髪に碧眼を持つ、爽やかなクール系よりの癒し系美少年。
前髪はアシンメトリー。
顔の左横の髪を耳にかけている。
女子中高生に人気の売れっ子モデル。
フランスのパリで年に2回開かれるファッションブランドの新作発表会“パリ・コレクション”。
通称パリコレ。
そんな世界最高峰のパリコレの舞台にモデルとして出演した経歴を持っている。
6兄弟の六男。
『うん、そう、不倫ってやつ』
「ふーん、へえ、不倫ね・・・」
そう呟いて歪められた顔をぼんやりと見つめながら、私は後ろめたい気持を感じていた。
最初は、尊敬する憧れの人だった。
フレンドリーで気さくな人だと感じていた。
ちょっとミステリアスさもあり、常識人で余裕のあるチャラい系。
私みたいにふわふわもしてなく、馬鹿正直の素直系でも天然タラシでもない。
計算してのチャラさと愛嬌でうまく世の中を渡っているような男だった。
だけど何故か、そんな男に惹かれていった。
自分でも理由はわからない。
それが恋だと気づくまでには、何ヶ月も時間がかかったから。
でも、それが罪だと知るまでには、そう時間は必要なかった。
恋に落ちた瞬間、その次には失恋した。
弱ってる彼を見て、今なら私だけを見てくれるかもしれない。
それは、藁にもすがる思いだった。
「ねえ、名前何ていうの?」
『私は染谷ユリ。 アイジさんには昔、いろいろお世話になったの』
にこっ、とユウタさんに微笑む。
「ユリさん、でいいかな?」
『ふふふ、そんな固くならないでよ〜。 話はなんとなく聞いてるよ。あ、タメ口でいい?』
「いいよ、親しみやすいし」
『じゃあ遠慮なく♪ 1週間くらい前から仕事で何度か家にお邪魔してるんだ』
うんうん。
「お前、もしかしてストーカー? サツ呼ぶぞッ」
『待って!それは誤解だから!』
「はあ? 誤解? 追っかけじゃないの?」
