『私に・・・君は殺せない』


頬を伝った涙が、ぽつりと零れ落ちた。


「バカじゃねえの・・・っ」


手首を掴んでいた手が震え、力が弱まる。


「俺を殺せば・・・この地獄も終わる。 そうすれば・・・平穏な日常に戻って自由になれる」


『兄さんがいない世界なんか・・・いらない。 生きる意味を失ったら、破滅を選ぶ。 世界が終焉を迎えてバットエンドだよ』


「んでだよ・・・。 俺の命に価値なんて、ないだろーがッ」


『私にとってはあるの。 兄さんの代わりなんていない』


「・・・代わりが、いない?」


『兄さんは私の一部だもん。 片割れがいないのは淋しいでしょ?』


風の音もない。

人の声もない。

銃声も金属がぶつかり合う音もない。

幹部の鍛錬の雄叫びもない。

無駄にはしゃぐ蜃鬼楼もいなければ、私を慕ってくれた西郷兄弟もいない。

月光が燦々と降り注ぐビルの屋上には、空虚だけが在った。