『・・・ヒロトさん。 加害者を皆殺しにしても、また次の飼い主が立ち上がるだけ』


ユリは言い放つ。 だけど・・・、


「やりすぎだと非難する奴もいるだろうが、なら痛みを受け入れ、死の恐怖に怯え、ただ耐えていればいいのか?」

俺の意志は固かった。

それだと加害者の思うツボだ。

抗わなければ・・・待ってるのは破滅しかない・・・。


『復讐は、なにも生まない。 昔、憎しみで武器を振るったことがある。 ただ怖くて、臆病で・・・弱かっただけなの』


「・・・・・・」


『もう、あんな想いをしたくない。 誰にも同じ想いをさせたくないから、蜃気楼を結成した。 ・・・だけど、そうね。 革新の声を上げることで誰かの哀しみには寄り添えるかもしれない』


ユリの声に、決意と覚悟が宿る。

憂鬱な曇り空の心に、光を差すように。


『いいでしょう。その連中には、蜃鬼楼十二代目総長六花が手ずから裁きを下します。 弱者が虐げられるだけの世の中を変えてあげる』


瞳に冷たい光を宿らせながらユリはそう言ってくれた。

それは普段のユリなら決して見せない鋭さと冷徹さを備えていた。



『ヒロトさん。 西郷家の長男としてひとつの答えを出した君を、とても誇らしく思う。 その重さをヒロトさん一人に背負わせるなんて絶対させないから』


ユリは冷たい瞳のまま俺の頭を撫でる。

・・・・・・

ぽんぽん。


「おい」


もふもふもふもふ。


「やめろ。 俺の髪で遊ぶな」


ユリは赤くなった右目もそのままに、眉間に皺を寄せて嫌がる俺が所有していた購入者リストを奪い取る。

そして俺がこの国の再生を六花に願った五日後には・・・その名簿に、生存者は一人として残ってはいなかった。