『13年前の冬のことだよ。 君は実家のある東京から親戚を訪ねるため、広島に来たんよ』


ハアと吐いた息は白かった。

陽の光を反射して冬景色の純白が目に痛い。


『そのときに巻き込まれた事件のことを覚えてない?』


ユリが少し心配そうに聞く。

言われてーーー脳裏に、記憶が溢れる。

あのときの・・・13年前の、出来事。

まだ、幼少期の頃。

俺達兄弟は知らない男に誘拐された。

孤児院へ連れてかれ、容姿の美しさからクラブへの商品として虐げられる生活を送って・・・そんな生活に嫌気が差して脱走を図るも失敗。

そこからは記憶が曖昧だ。

覚えてるのは、ひとつの景色。

瓦解して沈んでしまいそうな地下飼育場には、俺達の吐息と、扉の向こうから聞こえる勇気の足音しか聞こえない。

誰かが、扉を蹴破りながら。

誰かは、鍵で錠前を開錠した。

・・・・怖かった、とても。

そう・・・か。 あれは・・・・。

寝ずの番をしていた俺に向かって、手を差し伸べる慈愛に満ちた表情の、あの人はーーーー。

俺の、初恋の人は・・・。

ユリ、だったのか。


『ごめんなさい。 私は・・・助けを懇願する孤児院の子供たちを、見殺しにしたの』


俺達兄弟を、助けてくれようとした。

でもーーー生い立ちや環境のせいかシビアで現実的な面があり、人の好意を偽善と捉えて素直に受け入れられなくて。

手を、拒絶の意味を込めて叩いた。

何様のつもりだ、動揺を隠す言葉しか言えない。


『目の前にある大勢の命と、6人の命を天秤にかける究極の選択に迫られた。 爆弾を起動させた時点で青空を見るという目的は達成され、この地にもう用はない。 早々に去るべきだ。 駆けつけたところで助かる見込みはないかもしれないと勝手に判断したんだ』


そして・・今は、ユリの華奢な身体を優しく抱き締めた。

【ありがとう】、と。

ありったけの感謝の気持ちを込めて。