「そんな蕩けた顔したら、野獣の餌になるぞ?」
野獣の餌、って・・・。
脳裏に浮かんだ面々を口にする前に、兄さんが音もなく距離を詰めてくる。
『・・・!!』
殺気・・・!
ーーーーパシッ。
「お行儀が悪いな、六花」
初手はいなしたけど、すぐに腕を掴まれた。
「・・・今のお前じゃ、力不足だよ」
『なっ・・・!』
渾身の力で振り払おうとしてるのに、兄さんはまったく動じない。
「本調子なら負けるけどさ。 俺・・・お前に恐怖を知ってほしかったんだ」
『恐怖?』
「俺たちは自分の命に執着しない。 殴られても蹴られても、恐怖を感じなかった。 そんなふうにできてる」
『何が、言いたいの?』
「あの男も、お前に出逢う前はそうだった。 だけど・・・」
不意に、腕を握る力が強まった。
兄さんの指が食い込み、骨が悲鳴を上げる。
「お前に出逢ってから、あの男は人間らしくなった」
『?』
「西郷兄弟にとっても最大の恐怖は、お前を失うことだ」
不満そうに眉間に皺を寄せる兄さん。
「そんなお前が自分のせいでこんな目にあわされたと知ったら・・・どう思う?」
『・・・兄さんがアイジさんの血が流れた西郷兄弟を苦しめたがってるのはわかった』
媚薬の効果でその気になってるのか昂っていくのを逸るなと自制を利かせながら答えた。
『でも・・・私は大切なものは常に自分の傍に置いておきたいし、西郷兄弟の終着点に寄り添うのは誰にも邪魔させない』
「・・・怪物のくせに弱者を守るのか?」
『うん』
