アンリside

『ジローには、悪いんだけどさ・・・』


ユリの目は苛立たしげに細められた。

その直後・・・。

グイッ


「ちょっ・・・!」



不意に、胸倉を掴んだ。

そのまま膝を腹に入れる。

ジローは「うっ・・・」と呻き声を上げて、がくんと膝をつく。


『使い道のある駒なら利用するだけ』


顎にかけられた指に導かれるまま顔を上げて、ジローは静かにユリの瞳を見つめ返す。

いつもと違って感情が読み取れる、まるで憎まれているかのように強い視線がぶつかった。

ぞくりと背筋を走る悪寒に、ジローは動けない。


『悲劇のヒーローだからって、誰もが君に同情すると思わないで』


・・・それは、衝撃的な一言だった。

罪悪感に苛まれてる彼に【他人の傷なんて、本当の意味で理解することはできない】、そう言ってくれたユリのおかげで得た安心感のようなものが一瞬で凍る。

それと同時に、ジローはどこかで自分が今、同情されるべき境遇にあると思っていたことに気付かされたようだ。

ユリは、違うんだな。

俺に忠誠を誓ってないジローのことも、本気でどうでもいいと思ってる・・・?

・・・どっから情報を入手したかって?

答えは簡単。

携帯に特殊なアプリをインストールしたから。

機械系には疎いからバレる心配もない。

まあ・・・他にはそうだな・・・。

ユリの迷子対策用に、靴にもGPSの発信機はつけてるけど・・・。


『楽して逃げてるのはどっち? 弱虫なのは君の方じゃない』


「! そんな、ことは・・・」


『否定はさせない。 君はこれ以上、苦しい思いをして生きていたくないだけ』


「・・・じゃあ、僕は・・・何のために生きればいいわけ?」


ジローは、恐怖にかすれた声で言った。

思い切って尋ねたその言葉に、ユリは目元を緩めて不敵に笑った。


『道は自分で切り開きなよ』


「え・・・?」


眉根を寄せるジローに、ユリはフゥと小さく息を吐いた。


『ヒロトさんはやっぱり長男だから、少しやる気をだせばビシッと決めてくれるかも。 ユウタママはああいう人だから、いちいち君に配慮して、ジローの意思を尊重しようとする。 ルナさんはドSだから切りつけろって要求するだろうし、シュウさんは面白がってるだけでどう転ぼうが構わないって思ってる』


・・・・・・。

ユリの中で西郷兄弟って一体・・・?


『シンさんは乱暴だけど優しいから、君のためにできる方法を親身になって探してくれる』


「そう」


『ーーーだから私が、ご親切に一から十まで教えてあげてるの。 君に突き付けられた現実ってものをね』


低く呟くようにそう言い切ると、ユリはジローの顎から手を離した。


「染谷さん・・・?」


『人とは違う武器で差をつけな。 今ここにない未来を作るのは、君かもしれない』


「・・・・・・」


この人は・・・。

ジローを、心配してるのか。

悪役になりきれないところはらしいけど。

でも、その通りだ。

ユリの言い分は紛れもないジローの現実だった。