「・・・引き分けだな」
額に銃口を当てられても、兄さんは余裕の笑みを崩さない。
まるで・・・最後の仕上げがこうなることを最初から分かってて・・・想定内の範囲だったかのように。
腐っても兄妹。
所謂、阿吽の呼吸という奴かもね。
「俺はお前を愛してたよ。 ・・・特別で大切で、依存するくらいは好きだった」
『うん』
「でもーーーお前の心は、手に入らないから」
『心?』
「俺は、綺麗なお前が怖かった。 貪欲さの欠片もない、何色にも染まる危うさが」
『見慣れた風景に溶け込むのは簡単だよ。 自分を殺せばいいだけ』
それは、兄さんも含まれる。
喜怒哀楽の感情を持たない存在、アンドロイドよりも無情な名前のない怪物だ。
「・・・お前は、“普通”に憧れないのか?」
『うん、全く。 ・・・だって、私はもう普通に戻れないから』
哀しみは、ここで兄さんを殺せば消える。
その後の私に、一体何が残るの?
・・・なにも、残らない。
そんなことは、最初からわかっていた。
Roseliaを潰したところで、代わりの怪物が生まれるだけのイタチごっこ。
それでも、私はその道を選んだ。
『西郷兄弟は私の灰色人生に、最大フラッシュをくれたんだ』
淋しくはなかった、みんながいたから。
愛情を芽生えさせるはずの私が・・・、
愛情を芽生えさせられてた。
だから“ここ”で言いたい。
【ありがとう】って・・・。
「一緒に死のうか、ユリ」
嬉しそうに、兄さんが笑う。
兄さんのこんな柔らかい、満足そうな笑顔は初めて見たかもしれない。
「苦しめてごめんな」
『ほんとだよ』
「俺は・・・たとえ悪魔でも・・・少しはお前の役に立てたかな」
『さあね』
