ドサッ


「なあ・・・浮気・・・バレてないと思った?」



豪華な部屋にそぐわない乱暴さで兄さんは私を押し倒し、強引に服を剥いだ。


『ジローとは何もないよ』


「だろうな。 “あれ”は女慣れしてない初々しい奴だよ。 なんつーの・・・染まってない感? チャラチャラしてないし」


『身の潔白は証明されたってことでいい?』


「証明はされた。 でもそれとこれは別だろ。 俺が怒ってるの分かるよな?」


『うん。 めっちゃ不機嫌だし。 ヤキモチ妬いてるのも知ってる』


身を振って脱出を試みるけど、兄さんが本気で怒ってるせいなのか。

その力は思いのほか強く、うまくいかない。


「浮気性な彼女はいらない」


細い首に、兄さんの両手が絡みつく。


『あ・・・かはっ・・・』


苦悶の音が濡れた唇から漏れた。

私は兄さんの手に自らの手を添えると、押し付けるように力を込めた。


『もっ・・・と・・・』


絞り出すような声。

視界がぐにゃりと歪む。

遠のく意識と火照った身体。

瞼の裏には私を手招きする死神の面影。


「はっ、いいねその顔。 すげーそそられる」


兄さんの呼気が荒くなる。

それはまるで、獲物を狩る獣の様・・・。

首を絞められても、私は微笑んだままだった。

それどころか、笑みが深くなる。

満足そうに三日月を描く口元は、言い知れない喜びを表現してる。


『・・・ッ!』


投げ出された私の冷たい足の指が、きゅうと縮こまった。

ああ、と感嘆のため息が漏れる。

そういや前にハルカくんが言ってた。

“楽なんか求めないで”、と。

まさか。

私なりに全力で抗うよ。

本気でやらなきゃ兄さんに失礼だからね。

世界トップの総長は、甘んじて殺されるような人間じゃない。

暗闇の光を求めて手を伸ばす私の手には、赤い赤い血が通ってる。

それは【命の証明】。

鮮やかな現実を求め続ける、生を持ったものの証明だ。