次の朝、滝沢さんがマンションに迎えに来た。

「おはようございます、奥様、お迎えに参りました」

「おはようございます、わざわざありがとうございます、行きましょうか」

彼は部屋から出てきて、私を抱きしめた。

「亜実」

「柊さん、今までありがとうございました、すごく楽しかったです、大変お世話になりました、お役に立てなくてすみませんでした」

「最後みたいなこと言うな」

柊さんの顔を見るのはこれが最後、もう会えない
涙を堪えて、彼に背を向けた。

「滝沢さん、ありがとうございました、大変お世話になりました」

「いえ、お役に立てずすみません」

「あのう、柊さんをお願いしますね、ちゃんと食事する様に言ってください」

「わかりました、離婚届けを提出したらまたアパートに伺います、それまでは身分証明書やクレジットカードなどお使えるいただけますから、必要なものを購入しておくようにとの社長からの伝言です」

「わかりました」

「それから、気を悪くしないで聞いていただきたいのですが、社長は奥様と離婚後、取引先のお嬢様と婚約を予定しております」

「そうですか、おめでとうございますとお伝えください」

私は動揺を必死に隠した。