『じゃあお姉さん、また後で。』

...また後でって...眠い...。
突然、強い眠気に襲われた。



夢を見た。
「ねぇ、お母さん!」

「えっ...あぁ。ごめん。ぼーっとしてた」

「いまの話、全く聞いてなかったしょ!」

「お母さんは時折ぼーっとすることがあるからな。」

「2人ともごめんってば」

そういって顔をあげようとした。




『おーい、そろそろ起きて欲しいと思うんだけどー』

さっきのは夢を見ていたのか。
でも、あの夢は何なのだろう。
お母さん...そして隣の男性...。私のことではないのに。夢は思い出そうとする度、どんどん記憶が薄れていく。今はもう、ハッキリとは思い出せない。

『おーい、お姉さん。ぼーっとしてどうしたの?悪夢でも見た?』

もう夢は覚えていないけど。これだけははっきりと言える。

「ううん、すごくいい夢だった。」

そういった途端、朔月がとても嬉しそうにして笑った。

『!よかったね。』

「こんな目覚めがいいのは久しぶり。あとなんか体が軽い。」

『あぁ。それは...』

ふと、思った。ここは私の昔の部屋だということに...。

「なんで...ここにいるの...」

『その事だけど、時間を戻したんだよ。やり直しの始まりさ。』

本当にびっくりして声が出ない...。
まさか本当に...戻るなんて...。顔も髪型も高校生の頃の髪型だ。
さっき体が軽かったのも若いからか?

「若いというのは凄いね。」

『そんなおばあさんみたいなこと言わないでくれよ...。きみも元々はまだ10代だよ?』

「中身はおばあさんだったから。」

苦笑いをして言った。

『もう!これからはピチピチの女子高生!それらしい事をしなきゃ!』

「朔月の言い方の方がおばさん臭いと思うけど...。」

『僕はいいの!もう死んでて何年生きてるかなんて分からないし。』

どういう反応をすればいいか分からなかった。

『笑いをとろうと思ったのに...そんな思いつめないでくれよ。僕は死んだ時に後悔は全て現世に置いてきたんだ。だから後悔も何もしてない。』

朔月はすごい。私より若いはずなのに私よりも色々なことを知っている。私なんて19年間も生きてきて何も変わってないのに。

「朔月はすごい。」

『おぉ!そんなことを言って貰えると嬉しいよ。』

「本当にすごい。」

『桜だって凄いさ。』

「何が?」

『んー秘密。』

「ないんでしょ...」

『いやいや...と、話してる場合じゃない。そろそろ準備しないと間に合わないね。』

話をごまかした。と、思ったのは私だけ?

「間に合わないって...」

『?高校の入学式だよ。』

「そこから?!」

入学式なんて飛ばしても...

『飛ばしたら次の日にはグループが出来てて友達作るの諦めるだろう?』

友達なんているのか...

『やり直すために始めたんだろう?』

「...分かったよ。」

そのあとは制服を着て...身だしなみを整えて...。

『お姉さんは化粧とかはしないの?校則には引っかからないよね?』

「あまり好きじゃないの。合ってないと肌はカサつくしそれに時間がかかるから。」

化粧ですることと言えば保湿をするくらいか。

『もったいない。お姉さん、化粧に合いそうなのに。』

「平凡な顔立ちに似合うとでも?」

『化粧映えはすると思うけどね。』

「うーん...まぁでも大人になってからでいいかな。」

『そう。』

そしてなんだか今...変な気分だ。
さっきまで大学生だったのにまた高校生...。
なんかムズムズする。

『じゃあお姉さん、行ってらっしゃい』

行ってらっしゃい。そんな言葉を聞くのは何年ぶりだろう。私の家はお父さんしか居ない。お父さんも仕事で早く出てしまうため、よく1人だった。

「行ってきます」

私は今、やり直したことを後悔していない。