家を出る時に、隣の生田家のドアが目に入る。



このドアの向こうに行けるのは、いつ?

できれば今日、明日美をつれてここに帰って来たい。



「待っとけよ、おじちゃんおばちゃん」



明日美と一緒じゃなきゃここには戻らない。

ていうか、戻れない。



新たな覚悟を胸に、明日美の元へ向かう。

日曜日から約一週間、ひとりで福岡で頑張ったんだろうな。

佐世保にも出張したことあったけど、今回はプライベートの携帯の電源を切りっぱなし。

俺や青柳さんだけじゃなく、明日美と繋がりのある友達や知り合い、いろんな人たちとの関係をすべてシャットアウトしようとしているんじゃないのか?



そんな風に明日美を孤独に追い込んだのは、俺だ。

すべては俺のせいなんだ。



もう手遅れかもしれないし、間に合わないかもしれない。

だけど諦めるわけにはいかない。



万が一、ということもある。

念には念を入れて慎重にいかなければ。

車に乗る前にボンネットを開け、どこか不具合がないか徹底的に点検する。

ガソリンは昨日、満タンにしておいたから心配ない。



明日美を乗せるための準備に抜かりはないはず。

安全運転で行こう。




長崎駅前の高架広場で待ち合わせ。

とりあえずアミュプラザの駐車場に車を停めた。

高架広場へ行くにはアミュプラザの中を通らないといけない。

駐車場から直結でアミュの中に入ると、そこはメトロ書店のフロア。

三階だから下りのエスカレーターに乗って二階へ。



携帯で時間を確認すると、午後二時二十五分。

約束の時間までまだ三十分もある。



「ちょっと早すぎたか……」



どんだけ焦ってるんだ俺。

ちょっと気持ちを落ち着けるためにコーヒーでもと思い、一階のスタバを目指すため再び下りのエスカレーターに乗ろうとした。



「ん?…………あれ」



視界の端っこに、見覚えのある人の姿を捉えたような気がして歩みを止める。



エスカレーターに乗る人の邪魔をしないように、脇に退けてからさっきの人物を目で探してみた。



見失ってしまったのか、それとも勘違いだったのか。

ほんの一瞬のことだったから、人違いだったのかもしれない。



だけどどうしても気になる。

洋服の店や雑貨の店などがひしめくフロアを、人の波を縫うようにして歩きながらあの人を探す。



もうこのフロアにはいないのだろうか。