いつも、ずっと。

「私ね、思うんだ。友也は絶対に素敵なパパになれるよ」



な、なんだ唐突に。

パパってなんだよ、パパって。



「…………明日美?」



なにを言いたいのか意味が分からない。

暗号かなにか、俺に伝えたいメッセージが隠されているんじゃないのか。

明日美の表情からなにかしらの情報を読み取ろうとしたけど、俺をただ黙って見つめる切なげな瞳が潤んできたようで、胸がざわついただけだった。



開いていた傘を閉じてかもめ広場に入ってきた明日美は、そのまま俺の横を通り過ぎていく。



「明日美っ!」



俺に背を向けて改札口に向かう明日美が立ち止まったけど、こちらを振り向くことはなかった。



「友也、元気でね!バイバイ!!」



思いの外、明るくて大きな声だった。

だけど若干震えていたように思えた。

さっき潤んだように見えた瞳からは、雨のように涙が流れているんじゃないのか。



今すぐに駆け寄って抱き締めたい。

『どこにも行くな。俺のそばにいろ』って引き留めたい。



だけどそういう訳にいかない。

明日美が振り返らないのは、泣いている姿を見られたくないから。

今の俺に出来ることは黙って見送ることだけ。



真っ直ぐに上げた手を勢いよく振って、明日美は改札を通り抜けていった。







さて、今日はこれから田代先輩との約束もあるし、とりあえず一旦帰宅しなければ。

携帯の充電切れも気になるし、夕方まではまだ時間もあるし。

車に戻るために駐車場へ向かう。



それにしても、今日の明日美は様子がおかしかった。

強張った表情と俺を必要以上に寄せ付けない態度は、俺のせいだと自覚してはいるけど。

あの必死に堪えていた涙の訳は?

潤んだ瞳で俺を見つめていた明日美の顔が、目に焼き付いて俺を翻弄する。



『元気でね!バイバイ!!』なんて。

たった一週間そこらなのに、まるで永遠の別れのような感じがして。



…………もし、そのつもりだったとしたら?



歩みを止めて改札口の方を振り返る。

『どうする?』考えるより先に走り出していた。

改札からホームを覗くと、白いかもめが発車の時を静かに待っているのが見えた。



まだ間に合うか?

そう思った瞬間、発車のアナウンスが響いた。



ゆっくりと動き出す白いかもめを呆然と見送る。

俺は取り返しのつかない過ちを犯してしまったのではないか。



言いようもない不安と不甲斐ない自分に苛立ち、しばらくその場を動けなかった。