吉祥は身体の底から沸き起こる身震いを止められなかった。

案内されて辿り着いた屋敷はとてつもなく大きく、広大な庭は整備されていて全貌が把握できないほど。

長い廊下を雪男の背中を見ながら歩き、自然体に見えつつも全く隙のない動作に、こんな男を従えている百鬼夜行の当主はどんな傑物なのだろうかと冷や汗を流しながら通された客間には――

とてつもなく美しい三人の男が待ち受けていた。

上座には腕を組み、きりりとしていてその目に浮かぶ星のような煌めき、きゅっと結ばれた唇、その部位の全てが美しく、吉祥は唖然として立ち尽くした。


「入れ」


静かに声をかけられたその声色にも力が宿り、為す術もなく操り人形のような動きで当主――朔の眼前に座ったものの、その距離はかなりあった。

そして朔の左右に侍って静かに目を伏せているふたり――

ひとりは一瞬男か女か見紛う中性的な美貌で、やや襟足が長く、終始憂いを含んだ笑みを湛えていて、どことなく神秘的な雰囲気があった。

もうひとりは――目を伏せ、背筋を伸ばして静かに座っているが、長い前髪を左耳にかけ、紅玉の耳飾りをつけていて、男臭さこそないものの先のふたりより痩身体躯で、けれどどこか儚い印象があった。


「俺が当主で、このふたりは俺の弟だ。はるばるよくここまで来た。早速だが用件を簡潔に話せ。俺は忙しい」


「あ…あの……」


彼らを前にして言葉が詰まらない者は居ない。

圧倒的な存在感と美貌を兼ね備えた三兄弟と、脇に控えている雪男の視線――自分はこんなにも卑小な存在なのかと鬼族の良い家柄に産まれたはずの自身の自尊心を折られた。


「雛乃を…その…迎えに…」


皆の視線が降り注ぐ。

吉祥はただただ震え、ただただ怯えていた。