生まれた家は鬼族の始祖とも言うべき鬼頭(きとう)家で、代々鬼八(きはち)という鬼族から出た悪霊を封じるために存続してきた家だった。

その永遠とも言うべき流転を断ち切ったのは、先々代にあたる父の十六夜(いざよい)であり、格式高い家との縁組によって血を守ってきた彼が選んだのは――人の女だった。

ただしその母は特異で数奇な運命を持ち合わせていたために妖と同等に長命であり、それまで一子しか恵まれなかった家は数えきれないほどの子らに恵まれて、繁栄の一途を辿っていた。


彼はそんな十六夜の三人目の子――三男として生を受けた。


「天ちゃん…天ちゃんってばぁ」


「ん……なに、(あかつき)…どうしたの…」


「天ちゃんが怖い夢見たんじゃないかと思って…一緒に寝てもいい?」


返事をする間もなく隣に潜り込んできたのは、百鬼夜行という日々の務めを行っている長男の(さく)の娘である暁だ。


百鬼夜行とは初代が妖と人との懸け橋になるべく行われるようになったものであり、人を殺めたり食おうとする妖を制裁し、抑制力となるために行われている。

その家の長女として生まれた暁は次代の当主として育てられ、何故か自分が後見人をすることとなってしまっていた。


「いいけど…朔兄にはちゃんと言ってきた?」


天満(てんま)の所なら構わない、って言ってたよ」


「あ、そうなの…いいけど、僕悪夢を見てそうだった?」


「うん。だって天ちゃん汗だくだよ?」


黒と赤がせめぎ合う世にも珍しい光を目に宿した暁にじいっと顔を覗き込まれた天満は、手の甲で額を伝う汗を拭い、そこで初めて全身汗に濡れていることに気付いた。


「ああ…多分またあの夢を見たのか…」


「天ちゃん、私が傍に居てあげるから安心して寝ていいよ」


「はは、じゃあそうしようかな」


――暁は天満が悪夢を見た時必ずこうやって飛んでくる。

それが偶然ではないことを、彼は知らない。