百鬼夜行から戻って来た朔に報告をした天満は、兄の顔がみるみるにやけたことに若干の恥ずかしさを覚えながら、急いで部屋を出た。

そんなに長くは話し込まなかったものの、部屋を出て身体があたりそうなほどに目の前に立っていた暁と目が合って頭に手を置いた。


「朔兄に用?じゃあ僕は失礼して…」


「違うよ、天ちゃんに訊きたいことがあったの。雛ちゃんとどうなったの?雛ちゃんここから出て行くの?」


真っ赤に光る目に浮かぶ焦りの色を見て取った天満は、暁の両頬をむにっと軽く引っ張って手を引いて縁側を歩いた。


「出て行かないよ。雛ちゃんはここに残って君のお世話を僕とするし、僕の傍にもまた居てもらえるようにお願いしたから」


「!そうなんだ!?良かったあ、私ね、雛ちゃんがここから出てくのもいやだし、天ちゃんが悪い夢を見るのもいやだなあって…どうしたらいいんだろうって…」


――産まれて間もなく亡くした我が子の面影を暁の中にどうしても探してしまう天満は、跳ねるようにしてついて来る暁と自室に戻るなり、暁の荷を指してにっこり。


「というわけで、雛ちゃんにはここにまた戻ってもらうから、暁は戻っていいよ」


「むう、私を邪魔者扱いしたな!?天ちゃんの助平!ここで雛ちゃんにやらしいことするつもりでしょ!」


「ははっ、僕は悪い男だから、もちろんそうすることもあると思うよ」


爽やかに言ってのけた天満の足を思いきり踏んで悶絶させた暁は、それでも満面の笑顔で素早く荷をまとめ始めた。


「じゃあまた三人でおしゃべりできる?」


「うん。暁…君にも迷惑かけたね」


「ううん!私、雛ちゃんと天ちゃんがまた仲良しに戻れて嬉しい!」


あっという間に荷をまとめた暁は、随分すらりと背が伸びた身体をくるんと回してにかっと笑った。


「じゃあ天ちゃんまた後でね!」


「はいはい、走って転ばないようにね」


ばたばたと足音を立てて去ってゆく暁とは対照的に、足音ひとつ立てずおずおずしながら顔を出した雛乃を見て小さく手を挙げた。


「お帰り」


「あ、あの…ただいま…です…」


ここから、はじまる。