「あぁーっ、もう分っかんねえよー…」

大量の文の山に囲まれてそうぼやいた雪男は、真っ青な髪を乱暴にがりがり掻いて唸った。

天満の縁談相手をこの文の山から見つけなくてはならない。

朔に一任されて始めてみたはいいものの…心中は雛乃以外は有り得ないと分かっていた。

雛乃を失えば天満はきっとここから去って行くだろうし、また独りぼっちになって長い生を…いや、命を絶ってしまう可能性もある。


「んなの…無理だろ。天満の嫁さんは雛乃以外じゃ…」


「雪男、今いい?」


ぱっと振り返った雪男は、くすくす笑いながら散乱した文を眺めている天満を見て情けない顔をした。


「なんなのこれ」


「お前の嫁さんになりたいって奴らからの文だよ」


「ああ…それね。それ探さなくていいから」


「は?なんで?」


「雛ちゃんとちゃんと話をしたんだ。それで…全てを納得してくれたわけじゃないけど、もう一度最初からはじめたいってお願いしたら、分かってくれたよ」


おお、と呟いて目を輝かせた雪男は、そこらにある文を掬って天井に向かって投げて万歳をした。


「そりゃめでたいな!主さまには報告したか?」


「いや、まだだけど。雪男にはとても心配させちゃったから、先に言いたくて」


鬼頭家の末の妹を嫁に貰ってから、雪男も一家の一員となってさらに団結力は増した。

先代の時代からこの屋敷の一切合切を取り仕切ってきた雪男の心労を推し量ることはできず、胃が痛む思いをさせているのでは、と心を痛めていた天満は、文をかき分けて雪男の前に座ってぺこりと頭を下げた。


「僕、また頑張るから。誰にも迷惑をかけないように…」


「ばーか、お前らに迷惑かけられることなんか日常茶飯事だっつーの。お前のその顔と、その声の口説き文句と行動力さえあれば落ちない女なんか居ねえよ」


「なんか…同じようなことを天兄にも言われたような…」


「今度また袖にされたら俺に言え。朝までお前がいかにいい男なのか力説して考え直させてやるから」


「ははっ、よろしくお願いします」


ぽんぽんと頭を撫でてきた雪男の手はとても優しくて、童に戻った心地になりながら、甘えた。