雛乃と雛菊を分けて考えることはできない、と素直に告白された雛乃は、最初から恋をはじめて見ないかと提案してきた天満の顔を久々に――じいっと見つめた。

思わず少し顔が赤くなった天満は片手で口元を覆うと、恥ずかしそうにして竹林の方に視線を逸らした。


「いい大人がこんなことを言うのはどうかしてると思うけど…僕が信じられないなら、まっさらな思い出をいちから作りたいんだ。雛ちゃんを不安にさせたくない。何も思い出したりしなくていい。…居てくれるだけで、僕は幸せなんだよ」


「信じられないなんて…そんなこと…」


思っていない、と言えば嘘になる。

だが天満がこんなにやつれてしまい、それでも覚悟を決めて話をしてくれている気持ちはとてもありがたく、嬉しいことだった。


「でも…縁談が…」


「そんなの破談だよ、会ったこともないし、相手が誰かも知らないし。君をここから追い出したりしないし、これからも僕が守っていくから」


握られた手が猛烈に熱くなり、手汗が止まらなくなった雛乃は、あまりにも透明な美貌から目を逸らして蚊の鳴くような声でそれに答えた。


「…最初から、恋を?」


「うん。僕が気に入らなければ、そう言ってほしい。問題点は必ず改善するから」


「気に入らないなんて…思ったこともないです。逆に私の方が気に入られないんじゃないかって…」


「そんなことないよ。雛ちゃんは可愛いし、いい匂いがするし、あと…可愛い」


天満に絶賛されて顔から火が出そうになった雛乃は、心の中のわだかまりが少しずつ解けていくのを感じて天満の手にさらに手を重ねた。


「じゃ…じゃあ…最初から…お願い…します…」


――できることならその場で飛び跳ねて喜びたかった天満だったが、そこは大人としてぐっと堪えると、とりあえず受け入れてくれた風な雛乃の顔を覗き込んで、できうる限りの最高の笑顔を見せた。


「じゃあ雛ちゃん、これからよろしくお願いします」


腰が砕けた雛乃は、ずいぶん長い間その場から動くことができなかった。