天満つる明けの明星を君に②

「やーだやだやだ!天ちゃんをお婿さんにするんだもんー!」


「はははっ、くす、くすぐったいってば!」


駄々をこねて布団の上を転がり回り、天満にのしかかって脇や腹を狙ってくすぐりまくってくる暁ともみくちゃになりながら、いつか暁が連れて来るであろう婿となる男に微かな殺意。


「暁は跡取りだから婿養子を取るとしても、朔兄たちに挨拶に来て正面から‟お嬢さんを下さい”って言えるかなあ…殺されるんじゃないかなあ…僕も半殺しくらいにはしちゃうかもしれないなあ…」


「やだ天ちゃんやきもちなのねっ?私のこと大好きなんだからー!」


次期当主として厳しい修行の日々を送る暁には、こうした緩い日常の時も大切だ。

初の女の当主になるのだから、男以上に様々なことに注意し、努力をしなければならない。

だからこそ、こうして暁が甘えてくる時は思う存分甘えさせてやりたい。


「それはもう大好きだよ。だから僕や朔兄が納得いく男を連れて来るんだよ」


「だから私のお婿さんは天ちゃんだってばー!」


「暁、当主は伴侶となる相手を数人選んでもいいんだよ。ほら、僕は次席ってことで」


「何人も要らないもん。お祖父様や父様みたいにひとりの相手と幸せになるの」


お祖父様とは十六夜のことであり、彼は妻の息吹と共に旅に出ていてもうほとんど顔を見せない。

天満は隣に滑り込んできた暁に腕枕をしてやると、複数の夫を持つ暁を軽く想像してみて首を振った。


「そうだね、ひとりでいいと思うよ。ああそうだ、雛ちゃんの形見分け……暁?寝ちゃったの?」


人肌の温かさでうとうとしている暁の長くて艶やかな髪を撫でた天満もまた、目を閉じた。

雛菊が遺した髪飾りや着物は派手さはないが、暁に受け継いでもらいたい――

きっと雛菊もそう望むはずだ、と何故か自然に思い、朝までぐっすり眠りに落ちた。