天満つる明けの明星を君に②

暁は天満の妻だった雛菊のことをほとんど知らない。

若い頃に所帯を持ち、子が産まれる直前に妻子を失ったということだけは教えてもらっていたが、この話をすると天満の表情が翳るため、今まで避けていた。

だがどうだろう、今ならできるはず――と思った暁は、風呂から上がって一緒に蜜柑を食べながら思い切って訊ねてみた。


「天ちゃん、お嫁さんのこと教えて」


「君が知ってることで全部だよ」


「でも…でも…天ちゃんはもう一生お嫁さんを貰わないの?」


「…生まれ変わりって信じる?うちの家系は転生して再び巡り合ってる事例が多くてね。僕も…信じてるんだ。また雛ちゃんと会えるって」


雛菊を失ってからもうかなりの歳月が経っていた。

妖にとってはあまり長いと感じない歳月だったけれど、天満にとってはとても長くてつらいもので――そんな日々が癒されたのは、暁という存在だった。


「生まれ変わり…?また会えるのっ?すっごい素敵!でもまた会えるまで寂しくない?」


「寂しいかもしれないけど、また会えると思ったら少し和らぐんだ」


天満に蜜柑の皮を剥いてもらいながらその微笑をじいっと見ていた暁は、急に思いついたかのように目を大きく見開いてぽんと手を叩いた。


「天ちゃん!分かった!私、分かっちゃった!」


「え?何を?」


「天ちゃんを私のお婿さんにしてあげる!」




……まったく以て意味が分からず手が止まった天満にずいっと身を乗り出した暁は、鼻息荒くさらに息巻いた。


「お嫁さんとまた出会うまで独りは寂しいでしょ?だから私のお婿さんにしてあげる!そしたら幸せでしょ?お嫁さんと会えたら離縁してあげる!ほら、みーんな幸せ!」


名案だと言わんばかりの暁だったが、天満は思いきり吹き出した後身震いして我が身を抱きしめた。


「それはごめんなさい」


「え!?どうして!?」


「僕が朔兄に殺されちゃうよ。あと血が近いからね。それに君は大好きな男と夫婦にならないと。でもどうだろう…君は跡取りだし婿養子になるのかな…」


ぶつぶつ呟いている天満と、大好きな天満を婿に貰えない暁。

暁、はじめての失恋。